1930年代のフランス映画はルネ・クレール、ジュリアン・ディビュビュエ、ジャック・フェデー、ジャン・ルノワールの4大巨匠が盛んに作品を発表し、しかも名作揃いで文字通り世界の映画の先頭を走っていた。
しかし次第にナチ・ファシズムの脅威を身にひしひしと感じて映画を撮るようになり、作品はペシミズムの色合いを濃くしていた。
4大巨匠は大戦と共にクレール、ディビュビュエ、ルノワールはアメリカに、フェデーはスイスに亡命。
フェデーの弟子マルセル・カルネはフランスに留まり占領下の厳しい検閲の下で映画を作った。
カルネは戦前フェデーばりの「ジェニーの家」「霧の波止場」「北ホテル」などを制作していたが必ずしも一流の監督とは言い難かったが、占領下で1942年「悪魔が夜来る」を制作、それまでの作品とは一変し、知的に乾いた冷たい明るさを持ったものであった。
また制作に3年を要した大作「天井桟敷の人々」(1944)を完成させ(2作共詩人ジャック・プレヴェール
の脚本による)いずれも検閲したナチスには解らないがフランス国民には良く理解できる権力への抵抗、フランスに生きる庶民の心意気が力強く表現された傑作であった。
この2作でフランスNo.1の巨匠となったカルネは戦後「港のマリー」(1949)「愛人ジュリエット」(1949)「嘆きのテレーズ」(1952)と傑作を連発するが、その後急速に気が抜けたような作品しか作ることが出来なくなった。時代閉塞の時代に力を発揮する人なのかもしれない。
「愛人ジュリエット」は貧しさゆえに破滅していく男を冷たい感触で描いたシューレアリズムのファンタジーである。また冷厳な現実を見据えるリアルな切り口をみせ、ファンファンことジェラール・フィリップとシュザンヌ・クルーチェを起用、その完成度の高さと共に何度も繰り返し見た作品である。
シュザンヌ・クルーチェは美しく魅力的である。
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