「植物学とオランダ」 大場 秀章著

オランダといえば先ずシーボルトである。
ライデンには日本からの帰国後のシーボルトが住んだ建物が今シーボルトハウスとして公開されている。
シーボルトは多くのプラントハンターとは異なり、単に集めて雇い主に供出しただけでなく、彼自身がこれをセールスしたのである。日本植物の通信販売を手掛けた人物である。学者だけでなく企業家としてのシーボルトが浮き彫りにされており、生身のシーボルトが魅力的である。

 又、フリースランド州は61万人が住んでいるが90%がフリース語を解し、4分の3が話し、65%が読め、17%が書けると云う。地方のラジオ、テレビ局はフリース語の番組を流し、小中学校では週に数時間のフリース語の授業を設けているとのことである。画一的に言語を統一することなく、昔よりの伝統を守って言語を大切にしている州政府にも感心した。

後半では著者の音楽についての造詣の深さが感じ取れる文章もあり、60年安保著者に与えた影響にも触れておりマルクス主義と自分の距離についても述べている。

 

著者の時代、知識人を中心として多くの人がマルクス主義からの影響を強く受けており、これらの時代の人々が日本の指導的役割を果たす年代となった今、社会改革の理論は否定してもヒューマニズムの思想は意識の中に深く浸透して、これが穏健で安定した社会づくりに貢献しているのは確実であると思われる。