村上春樹 『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』読む 

多崎つくるという主人公の高校生時代の親しかった5人の仲間のやがて来る崩壊に納得出来ずに20年近く引きずって来た現在を語っているがそれ程彼の人生を左右することだったとは、我々の人常生活を振り返ってみてもいかにも作り物との感が拭えない。
これ位の事が物語の中心に据えられるにはあまりに子供じみていないか。
従って登場人物にも物語にも存在感も現実感も乏しく会話も上滑りして行く。言葉と文章が心に沁みこんで行かずに頭の上を通り過ぎていく様に感ずる。
確かに1Q84と同様に音楽に対する造詣の深さや、細部に亘る表現は流石と思われるが、あたかも良質のワインを飲むごとく極めて心地良く、読みすすめるが読んだ後には何も残らない。
作者の過去に蓄積した小説家としてのテクニックには感服するが、それだけで作家の全力投球した作品ではないことは明らかではないかと思わざる得ない。