岩波「図書]「強引な解説が古典を延命させる」ー斉藤美奈子ーより

カール・マルクス「ルイ・ボナパルトのブリューメール18日」は以下の書き出しで始まる。
「ヘーゲルはどこかでのべている。全ての世界史的大事件や大人物はいわば2度あらわれるものだ、と。一度目は悲劇として、2度目は茶番として、と」
「ブリュメール18日」はルイ・ボナパルトのクーデターフランス第2共和制衰滅史」ともいうべきもので、1848年2月革命によって成立した共和制が1851年12月2日のボナパルトのクーデターによって壊滅するまでの歴史を述べたものである。
男子普通選挙権を実現した共和制の下で、ルイ・ボナパルトのクーデターが可能となり、しかもこの独裁権力が国民投票で圧倒的な支持を獲得できたのは何故なのか。ポイントは普通選挙だったこと。以下「ブリュメール18日(平凡社ライブラリー版)植村邦彦訳のあとがきからー「ブリュメール」は1930年代のファシズムにおいても90年代以降の情勢においても貫徹するものをはらんでいる。

ヒトラー政権はワイマール体制の内部からその理想的な代表制のなかから出現した。
日本の天皇制ファシズムも1925年に法制化された普通選挙ののちにはじめてあらわされたのである。
ナポレオンの甥という以外には何のアピールポイントもなかったボナパルト。

彼はメディアによって形成されるイメージが現実を形成することを意識的に実践した最初の政治家だったといってよい。以上

 

そして今日の第2次安倍晋三政権である。岸信介の孫という以外に何のアピールポイントもないのに、3年で頓挫した民主党政権の後、圧倒的支持を得て成立した安倍政権。特定秘密保護法から集団的自衛権の行使容認問題まで、そいつが暴走しまくっている歴史の反復。1980年代の終わりに「共産主義体制」が崩壊し民主主義と自由主義市場経済の世化による楽天的な展望が語られたとき、マルクスの「資本論」や「ルイ・ボナパルトのブリュメール18日」等の著作が鈍い燻し銀のような、だが強い光彩をはなちはじめたのはむしろそのときからである。と述べている。

「ブリュメール18日」は民主主義的代議制のもつ危険な陥穽について警鐘を鳴らしている。