平野啓一郎の「透明な迷宮」を読む

23歳にして芥川賞を受賞した「日蝕」で類稀な才能をみせた平野の作品を久方振りに読む。
「消えた蜜蜂」はある小村の郵便配達員を描いている。養蜂家の兄は一夜にして蜂が全滅、近くの農家の農薬によるとして裁判を行うが敗訴、家を出る。

弟は郵便配員となったが、彼は特異な能力を持ち、一度みた字をそっくり真似る。やがて集配した官製ハガキを複製して、本物は自宅に保管、膨大なハガキの山が見つかるという話である。

 

「ハワイに捜しに来た男」は人捜しを依頼されて、自分に似た男を依頼に従って捜すうちに訳が分なくなり自己を喪失していく話。

 

「透明な迷宮」は関係する女性が実は双子で、主人公は自分の意識が混濁していく話。

 

平野啓一郎はは何を語ろうとしているのか。人間の心の底に潜む、自分でも分からない不可解なもの、まして他人には理解することが不可能なものを各自が持っており、人間は解り会えないものではないかといった不可知論の世界を描こうとしているのであろうか。現実をリアルに捉える表現能力はさすがと思うが、後味の悪い読後感が残る。