映画「ホース・マネー」を観る (ユーロースペース)

冒頭20世紀始めのニューヨーク スラム街の写真が数枚写しだされる。
ポルトガル・リスボンの廃墟のような建物の中を裸のヴェントゥーラが降りてゆく。

牢獄のような建物にもみえるが精神病棟のようでもあり、病室は比較的清潔に保たれ

ている。彼は医師の質問に19歳3ヶ月(年齢)で今日は1975年3月11日だと語る。

 

待遇に不満を持ち植民地戦争に疑問を抱いた若手将校を中心に「国民運動」が盛り上ってスピノラ前大統領による軍事クーデターを粉砕して民主化は一挙に加速した。
兵士達がリスボン市民からもらったカーネーションの花を銃口に刺したことからカーネーション革命と呼ばれたのが3月11日であった。
しかし当時ポルトガルにいた10万人に及ぶ黒人移民達にその恩恵が及ぶことはなかったのである。

革命にも歴史からも無視された多くの黒人達をヴェントゥーラが体現しているのだ。

 

若き日のヴェントゥーラが革命軍に捕えられる場面が出てくるが、映像は彼の老人の現在の姿である。
突然ヴィタリナというアフリカ西部のカーボ・ウェルテ出身の女がヴェントゥーラの見舞いに現われる。また夫の死亡通知をみて早速やってきたのだと云い、夫と自分の婚姻証明を読み上げる。彼女はこの後再三登場してくる。

廃墟となった昔働いていたレンガ工場の中や病院の中をパジャマ姿やパンツ一枚、シャレたシャツとスラックス姿で歩き回るヴェントゥーラ。

病院のエレベーターの中で武装した反革命軍とおぼしき兵士と対話するヴェントゥーラ。

彫像化している過去の兵士で口も利かない。声はヴィタリナを始めとする様な人物の声がひびき、ヴェントゥーラと時空を超えて対話する。

やがてヴェントゥーラは退院する。

 

 題名「ホース・マネー」について。
ヴェントゥーラは「マネー」という名の馬を故郷に残し「マネー」を得るためにポル

トガルに移民した訳だが、馬は奴隷の取引にも利用され、また飢饉の際には食用肉と

もなった。「ホース」は「マネー」なのであった。

 

この作品は山形国際ドキュメンタリー映画祭2015年でグランプリにあたる大賞を受

けている。
監督はポルトガルの鬼才ペドリ・コスタ。