第3回 かつしか文学賞 優秀賞「天のこと」読む

第3回 かつしか文学賞 優秀賞「天のこと」

広都悠里作 よむ

表紙に舞台は葛飾とある

 

全く魅力のない女主人公手代野明瑠が男に捨てられて、すっかり落ち込み、葛飾に流れて来て最後に恋人をみつけて幸を取り戻すという話である。しかしこれでは物語にはならない為に、降臨した神「天」を登場させる事によって無理遣り作品としている。

捨てた男の人物も彼との関係も全く書かれておらず、作者にとって、それはどうでも良い事なのかも知れない、では何が重要なのか何人か登場人物が出てきて勤務先の会社も出てくるが、上辺をなぞる文で中味がないのでこれも作者にとっては意味がないのであろう。

主人公にとって大事な事は唯一点恋人をみつける事、それ丈が価値である事なのである。

葛飾出身の漫画家つげ義春の作品に「大場メッキ工場」がある。当時朝鮮戦争の軍需景気で沸いた日本であったが場末の零細企業にはその恩恵は回って来ず、米軍の弾丸磨きの仕事しかやって来ない。女社長と少年工の2人の生活は支えられず、途中入社の中年熟年工と女社長は手をとりあって夜逃げするのである。少年工だけがとり残される。しかも弾丸磨きは殺人の道具であるのだ。この作品は当時の葛飾の零細企業と働く人々が実に見事に描き出されており、その事が読者の胸を打つのである。日本の資本主義の現実が良く把握されている。

さて「天」は社会や人物には興味がなくつくりものの物語にのみ関心があることは明らかである。この作品が優秀賞に選ばれた事は理解に苦しむ。葛飾と何の関係があるのだろう。葛飾に住む人々の生活、その楽しさや苦しみ、中小企業や中小商店の実情、地域の歴史に関心があって掘り下げてこその賞であるべきではないか。