「もののけ姫」と中世の魅力
網野善彦と宮崎駿が「もののけ姫」の時代である中世から近世に移行する転換期の15
世紀室町時代を語り合う。
1.当時は日本の西半分は照葉樹林の森に覆われていたが室町時代に人間社会が中心と
なり、森は失われている。鎌倉仏教が誕生した。
2.15世紀は百姓も皆腰刀を持って武装していたし、鉄砲まで持っていた。黒澤明の映
画「七人の侍」の出来があまりにも優れていた為に以後呪縛の要に日本の時代劇を
縛ってしまった。
3.百姓の中には色々の生業の人がおり商人や職人も多く、農民の割合は多くみても
40%に満たないものであった。百姓一揆は困窮した農民が一揆を起したと考えるの
は間違いで、自由民権運動の秩父事件の先頭に立っていたのは博打打ちの田代英助
であった。士農工商はイデオロギーであって実態ではない。士農工商をはっきりさ
せたのは明治政府である。
4.室町期は完全に銭の交換経済で、現銭だけでなく手形が流通する時代になっていた。
5. 女性は養蚕をやり、絹や布は女性が作って自分で市場に出して売っており、おかね
は女性のものだった。土地は公のものである為に名義上は男のものであったが、動
産は女性の管理下にあった。宣教師のルイス・フロイスは「日本では夫と妻がそれ
ぞれ財産を持っていて、妻が夫に高利で貸す」と述べている。
6. 日本の小型の馬が甲冑をつけた侍をのせてあんなに走れるわけがない。
せいぜい3分半で馬は喘いでしまう。
7.世の中全体が豊かになって銭が流通し始めると、合理的計算が始まり富への欲が非
常に強くなり、その欲が自然の恐ろしさを超えてしまう。
それまでの日本人の暮らしは自然とうまく調和していたが、そのバランスが崩れ始
めたのが室町時代である。
8.江戸時代の終わり日本人庶民のもっていた職能的な能力、商業の帳簿の組織などは
非常に高度でヨーロッパ文明をまたゝく間に取り入れる事が出来た。
等が縦横に語られている。
ー 網野善彦対談集 その2よりー