『諸国畸人伝」を読む 石川 淳全集著 2020年9月22日
「諸国畸人伝」 石川 淳全集 第13巻のうち初出は 別冊 文芸春秋 昭和31年新年号
より昭和32年6月号まで10回に亘って連載された。10題の伝である。
石川は先ず「近世畸人伝という本のあることを知っている。伴 嵩蹊著 全5 寛政2年 庚戌(1790年)ことに世にきこえたこの本について、今さら解説の要はあるまい」これを明らかな俗書とし、学者のもって拠りどころとするようなものではないとし「しかし俗
書であるがゆえに流行を覗く為にはかえって手ごろのものである」とし、18世紀後半から19世紀半ばにかけての畸人たちをその主旨にのっとりとりあげている。
指物大工で出雲の国の藩主松平治郷(不昧公)より如泥の号をさずかった小林安佐衛門
に始まり豊後高田の人形師 算所の熊五郎、駿府の左官安鶴等、安房、伊那、府中、駿河、出羽、越後、阿波、松江、豊後に至る10人である。
北越雪譜を著した鈴木牧之を除けば僅かに坂口安吾の父親坂口五峰を間接的に知る以外
に私にとって全く馴染のない人物ばかりである。
それ等を一人一人現地に赴いて、その末裔を探し出し、寺の住職からも話を聞き、墓も
調査し、地元に残る文書や作品を調べ、その足跡を丹念に調べている。
10人はいずれも見事に一芸に秀でた人物ばかりで、その伝と紀行文は実に面白く、又
坂口五峰の中に「五峰は次第に政事の方に生活を引きずられて行って俗務ごたごた。
したがって五峰伝はごたごたして来る。わたしはバカなごたごたに付き合うことを好ま
ない」と云った薬味もピリリと利かす事を忘れない。
この地味で忍耐のいる仕事をあの石川淳がやっていたのかの思いが強いのである。