『エレクトラー』 作 ソフォクレス 2022年3月19日

「エレクトラー」ソフォクレス作  2022年3月19日

「エレクトラー」は妻と従兄弟によって殺害されたアガメムノーンの長女エレクトラーを中心に据えてこの作品を描いている。作品の基本的な構成はオレステスがアポロンの神託を受けて従兄弟のピェラデースと共に実に7年振りに帰国。父アガメムノーンの墓に供養の髪の毛を捧げて後、姉エレクトラーと再会、虚偽の報せなどの計略を用いてクリェタイメストラーとアイギストスを殺害し復讐を果たすというものである。

この作品に登場するエレクトラーの妹クリュートラミスは父を殺した母と権力を奪って王位に就いた情人アイギストスの前に屈伏して現実に妥協し豊かな生活を享受している。頑なに復讐心に燃える姉エレクトラーとの間に実りのない言い争いが続くことでエレクトラーの激しい復讐の念とその決意の固さが一層浮き彫りにされる。

父が殺害されてからのエレクトラーの執拗な非難を受け続けた母クリュタイメストラーと今や王となったアイギストスはエレクトラーに食事、衣類等召使以下とも思える非常な境遇に陥れる。エレクトラーにとって父の復讐の為には死をも恐れない激しいものであり、繰り返し行われる母との論争は娘イーピゲネィアの為の復讐を理由に自らの正当性を主張するクリュタイメストラーに対し、アイギストスとの密会こそが真の理由であると弾劾して母を圧倒する。またオレステスは帰国前から2名の殺害はすでに決意しており、姉の要請によって意思を固める事はない。彼の目標の第一は母クリュタイメストラーで、先ずは彼女を殺害しその後帰ってきたアイギストスに殺害された姿を見せた上にアイギストスをも殺害する。オレステスには些かも気持ちの動揺は見られない。物語はここで終わり、オレステスの親殺しに対する復讐の女神たちエリーニュエスも登場しない。

コロスの最後の朗詠。

おお  アトレウスの血を引く子よ、何と数多の苦難の果てについに自由の境涯へと辿りつかれた事か。今日のこの殊勲により見事その身を全うして、とあり母親への復讐は正義であるという立場に立っている。

注1)コロスは市民の女神から成っている。

注2)作者ソフォクレスはアテネ市 郊外裕福な家庭に育ち、90才まで創作活動を行い123編の作品があったと伝えられている。政治家としても活躍、高官職も歴任している。紀元前5世紀の人。