E.H. カーの「歴史とは何か」 1961年初版
① 岩波新書が発行されて今日に至るまで、最も評価の高い本が 1位「歴史とは何か」で2位は丸山眞男の「日本の思想」である。
② E.H. カーは「歴史とは歴史家の経験である。歴史をつくるのは歴史家以外のだれでもない。歴史を書くという行為だけが歴史を作るのである」
「歴史家とその事実のあいだの相互作用の絶え間ないプロセスであり、現在と過去のあいだの終りのない対話なのです」
「科学とは一方で『多様性と複雑さに向かって』、他方では『統性と単純さに向って』同時に進歩していると指摘したうえで、この二方向で矛盾して見えるプロセスこそ○の必要条件なのだ。「科学におけるあらゆる進歩とは、始めに一つと見えた生の状態からさらに論理学でいう前件と後件の大きな分化へと、そしてますます広範囲の前件が関連しているのだという認識へと私達を連えて行くものである。」
「文明の没落とかいうお話のすべてはじつのところ何を意味しているのかと云うと、昔の大学教授は家事使用人を雇っていたが、今や自分で台所に立って洗い物をしているというにすぎない」
「歴史家は勝利した諸力を前面に引き出し、敗北した諸力を後方に押しやる事によって現存の秩序に必然といった容貌を○える。」等のまことに示唆に富んだ発言を多く述べている。又ギボンの「ローマ帝国の衰亡」という重いテーマにも動じることなく、彼の自説「すなわち世界のあらゆる時代は人類の本当の富、幸福、知識をあるいはまた美徳をも増進させてきたし、これからもなお、増進させるもであるという愉快な結論」をしっかり記したのだ。進歩の崇拝はイギリスの繁栄、権力、自信が高みにあったときに絶頂に達した。そしてイギリスの文筆家や歴史家は、この崇拝のもっとも熱心な唱道者であったのです。とヨーロッパで第二次大戦まで人類の歴史は進歩の歴史であるという確信がギボンの文章にも良くみえる。
E.H. カーは歴史について実に様々な考察を行い、私達を多方面に誘う。ユーモアを交えた語り口は実に楽しく、知的興味を呼び起して尽きることがない。