ジロドゥ戯曲 旧約聖書「ユディット」書から 2023年8月17日

ジロドゥ戯曲「ユディット」  旧約聖書「ユディット」書から

 

ホロフェルネスは12万の歩兵、1万2千の騎兵を擁してユダヤの都市ベトウリアを包囲する。都の壊滅を観念した市民は最後の望みを美人の寡婦ユディットに託して、彼女の犠牲と引きかえにベトウリアに対する攻撃を止めてもらう事を願うのだ。

ユディットは「わがなさんと欲することも天主より出でたるかを試し見よ」と告げてホロフェルネスの陣屋に行き、彼が酔いつぶれている隙に首を切りおとして市に持ち帰る。

市の人々はユディットに対し「汝は讃えられて救国の女傑」として崇めた。

この史実をジロドウはこの作品としたものである。

ユディットを名門の生まれの絶世の美人で処女とした。彼女は神の明示に従ってホロフェルネスの陣屋に向かう。しかしユディットはホロフェルネスの男としての魅力と人間の大きさに敗れて、彼の腕に身を投ずるが、翌朝自らの激情に流された行為に困惑してホロフェルネスを殺害する。

ホロフェルネスを失った軍隊は崩壊して退却する。集まってきたベトウリアの要人たちはユディットを聖女とする筋書きにそって事を治めようとするが、神意に疑いを持ったユディットはこれに激しく反発し、ホロフェルネスと愛を交わした事をはじめ本当の事を公表すると対抗、そこに神は衛兵の姿を借りて現われ、ユディットはこれとの戦いに敗れて、要人達の描く、また神の希望通りの筋書きに従うのだ。

ジロドウは神と人間との間の戦いを中心にこの物語を作っており、神は人間の声など無視する存在とされている。ヨーロッパでは今日に至るも神と人間の関係に繰り返し問題視されている事が分かる。

我々、日本の無神論者にとっては仲々理解しにくいところである。

しかしヨーロッパでは圧倒的なキリスト教の影響力との相克によって今日の哲学、思想が築きあげられてきたのではある。

日本はそうした経験を持たないまゝ今日に至っている。