「石器時代の文明の驚異」
リチャード・ラジリー 安原和見訳 河出書房新社
まず 「はじめにー野蛮な文明」より
現在の世界の状態、具体的にいえば今日の社会は昔より悪くなっているというのは、世界の神話にほとんど普遍的にみられるテーマだ。とし「今日まで書かれてきた人間の物語は、ひどく編訳されているうえに編集もまったくなっていない。
人類についての記述は、最初の何章かの内容はほとんど削られている。
この惑星に人類が登場してから現在までの時間を100とすれば、95%以上は先史時代が占めている。それなのに、人類に関する記述の95%は残りの5%である歴史時代が占めているのだ。
むしろ歴史時代のほうが長い本文にくっついた華やかで波瀾に富んだ後書きである。
そして野蛮と見下されてきた文化が多くの点でいかに文明化していたか、いわゆる文明人がどんな野蛮なことをしてきたかをこの本は語り尽くしている。
1.に文明的な科学的活動を行う人々が、いかに目をおゝう程の残虐行為を行ってきたかを詳述している。
2.先史時代の文化は現代の科学、機械、技術に匹敵するものをもっていないだけでなく、呪術や迷信への依存ー現代文化がすでに卒業したとされる習慣を脱却できずに進歩していないとされてきたが、社会の進歩を奉ずる多くの信者には申し訳ないが、呪術やオカルトなど、迷信的な慣習と呼びそうなことは、文明世界じゅうどこでも盛んに行われている。
統一教会をはじめ創価学会等の新興宗教の盛大さはどうだ。
石器時代にも科学的思考は存在したし、その一方で現代にも呪術的思考は厳然として存在しているのだ。
3.「現代の文明国の市民より封建時代の農奴は少なかった。したがってそれ以前の社会では個人の権利はさらに少なかったはずたという考えがある。
石器時代の平均的な個人は農奴より(現代の民主主義国家の平均的市民より)もっと自由に生きていたかかもしれないのに) そんな可能性は頭から無視されている。」
例えば北極圏のエスキモーやカラハリ砂漠のブッシュマンの一部族クン族のカロリー摂取量は第3世界の多くの国よりも高いだけでなく、先進国でも都市の貧困層に比べて高いという。
私達は特権階級の経験ばかりを偏重し、それ以外の人々については、ほとんど無視している。技術が発達すれは個人の生活が向上するのは当然だと思い込んでしまうのだ。
東アジアの人骨の研究では、農耕の採用とともに身長、体格、平均寿命が劣化していることが明らかとなり、狩猟民の方が健康状態はよかったのてある。
また集約的な農耕、牧畜が発達した段階では、大幅に低下しているのだ。進歩という概念は、見かけほど単純明快ではないと云うことが分かる
4. 三内丸山遺跡についての詳細が語られる。
前5000年から3500年頃まで集落が栄え、遺跡の中央部だけでおよそ100棟もの掘立柱建物が見つかっているが、食糧の貯蔵に使われたようだ。
建物の総数は1000以上になるという。何百という竪穴住居のほか倉庫や物見櫓などの建築物もあったのだ。
また深い柱穴、入念な基礎工事から考えて、高層建築であったとみられる建物もある。
遺跡からは様々な木製品、樹皮の器、籠、繊維を編んだ製品があり、共同墓地も見つかっていて、縄文文化はかって考えられていた以上に複雑だったことを示している。
驚くほどの規模、集落の規則的な配置から、これが周到な計画に基づく集落であり、この共同体が、よく組織されていた事がわかる。
つまりかなりの規模の村と言ってよいもので、土器をはじめとする大量の土製品が見つかっていることから、近辺の小規模な集落に作った製品を供給していた可能性も高かったとみられる。
5.ある文化が、文明化されていると言うのは、文字と国家と金属器がなくてはならないとされていたが、それでは縄文文化は何時まで経っても原始的で低い発達段階にある文化としかみなすことはできない。
しかし縄文時代の社会には別の驚くべき原理・従来の文明に欠けていた原理が備わっている。
すなわち自然への敬意と、自然との共存である。
人と自然との適切な関係がその地域の特性に応じて確立されたときに、文明は出現しはじめる。
縄文文化は日本列島固有の海と森に調和した永続的かつ普遍的な生活様式を確立した。
日本文明の真のルーツでありそれゆえに縄文文明と呼ぶべきであるとしている。
6.現代文明はいかなる犠牲を払っても進歩しようと傲慢に努力を続けることで、その存在のおおもとである地球を破壊しようとしているのだ。
歴史時代の文明の支配のもとでは、残酷と野蛮の度合いはむしろ増大し、大量の人間に苦痛を与える社会的、技術的な手段が増大している事は明らかである。
植民地支配のあとに来たものは、表向きは優しげだが、相変わらず押しつけがましい開発と呼ぶ事業だったのである。
そのあと、原始時代に於ける、生活、技術、医療、文化等についての事例が記述されて、私達の従来の無知を啓蒙してくれるのである。
7.改めて考えてみると、歴史的時代に入ってからの人類の歴史は他の生物に類をみない特異なもので、支配と抑圧、殺戮と戦争、そして環境破壊の連続によって地球という生命体の破壊に至る道をひたすら走ってきたと言えるのだ。
昨今の災害、そして温暖化の急速な拡がり方をみると、地球の破壊が現実のものとなっている事がわかる。